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第24回 − シリコンバレーの友人たち −

既に帰国後二週間あまり経過し、国内での仕事に忙殺され、記憶もぼやけ始めているが、本当にしばらくぶりで米国に3日間ほど訪問した。今回の目的は、米国ベンチャー企業のアドバイザリ・ボードのメンバーとして、アドバイザリ会議に出席することにあった。 以前から何回も出席要請が来ていたが、太平洋をわたるゆとりがなく、気にとめつつも断り続けていたところ、今回は私のスケジュールをあらかじめ確認し、会議日程を決めたため、断る理由がなくなってしまったのが実情である。

ボードメンバーは、50歳を超え既に自分の会社を起業し大学教授としての経歴も持つ経験豊かな人や、女性のベンチャー・キャピタリストなど、シリコンバレーで活躍している人々から構成されており、言うまでもなく日本人としては私ただ一人である。 彼らとの約束上、詳細を述べることはできないが、30代前半の社長の報告に基づき、新たな商品計画や組織計画等について、活発な議論が進められた

普段、日本に暮らしている自分としては、彼らが才気溢れる新たなアイデアをお互いにぶつけ合う場として予想し、やや身構えて出席したのであるが、議論のポイントは極めてオーソドックスなものであり、我々が日本でビジネスプランについて検討する場合の内容と大差はない。

ただ、このオーソドックスさが恐ろしい。30歳前後の若者達は本気でつぎの時代の社会機構を作ろうとしているし、またできると信じてもいる。実際に、次世代のリーディング産業と言われるITビジネスやバイオの世界で、彼らが中心となって数多く起業していることは、もはやニュースにもならない常識である。

30歳前後の若者が本気でネットワーク上の機構を、自分の問題として語る姿が頼もしくもあり、それを支える顧問団も本気で対応している。振り返ってわが国でこのような場があるのか疑わしくもなる。

実際に日本で研究開発型ベンチャー(?)を立ち上げ5年あまり経過した私自身を振り返ると、残念ながら新しい産業を創るような意図は未だに持ち得ない。自分のこだわっている領域で、継続的に飯が食えるならば幸せとしているのが現実である。その裏返しとしては、日本においては行政を金融機関を中核に何世代にもわたって経済を支えている大企業群が次の時代にあっても中核であり続けていくと言う暗黙の前提が私自身にも明らかに植え付けられているし、期待もしている。安定志向とも言うべき意識である。

一方、米国で彼らと会うと、私に刷り込まれたこの潜在意識に否応なしに気づかされることとなる。彼らは明らかに主役を演じているのに対し、私は黒子かもしくはせいぜい助演者としてのスタンスに立っている。このスタンスに立っているからこそ、私は芝居の流れを多少なりとも読みとり、米国でもアドバイスができる。翻って、自分が主役にたったとき、冷静に芝居の流れをくみ取れるか疑問もわく。

最近わが国でもベンチャー待望論が盛んである。実際に、数多くのこれらに関わる人々と親しくもしている。しかし、親しくしているNYで活躍されている日本人ベンチャーキャピタリストである増田 茂さんがかかれた「メガ・ベンチャー(東洋経済新報社)」にある、たった4人で当時のIBMの牙城に対抗していくビジネスプランを持ったCompaqの創始者に相当するようなベンチャーは、日本においてはお目にかかれない。わが国のベンチャーは常にニッチ・ビジネスが主眼にとどまる。

例えれば、資金もない20代の若者4人が打倒日立製作所、打倒NTTを掲げて起業するようなものであり、到底日本では考えられない。おそらく、若者をとりまく経験者達が彼らをなだめ、こぞって正しい(?)道を歩むようスタビライズしていくであろう。

ただ、繰り返すように、当社の若い諸君と日本語で議論している内容と、米国で議論する内容とは大差はない。先頃ある会議で一緒になったカナダのエヴァンジェリストに持つ印象も同様である(なんと彼の名刺を見るとチーフ・テクニカル・エヴァンジェリストという肩書きである)。

私自身としては、「日本」では行政機構から金融、大企業に至るまでネットワークへの取り組みが遅れていると力説し、日本固有の課題として説明するのであるが、彼らの反応は共通したものである。「カナダでも同じだ。」「USでも同じだよ」である。彼らの言葉を借りると、「我々も、同じ課題にストラグル(もがいて)いる。決して日本固有の問題ではない」という答えである。

日本と違う点があるとすれば、「だからこそ、俺が取り組むんだ!」と言うのが彼らの本質であり、「だから日本はだめなんだ」と評論してしまうのが(私を含める)日本人の性癖ではないであろうか?

米国の友人と会うと常に自分を振り返る機会が与えられる。



執筆  菊田昌弘(前代表取締役)



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