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第39回 再び、CALSを考える

私が、ネットワークにかかわりだした当時は、インターネットが今日ほど普及しておらず、もちろんブラウザなるソフトウエアも存在していなかった。

当時、ネットワークを利用した社会的機構の先駆的な取り組みとしては、米国国防総省を中核に進められていたCALSプロジェクトが知られているに過ぎなかった。CALS は、歴史で使われる言葉としての印象が強いが、1985年より開始された CALSプロジェクトは、明らかにネットワーク上での新しい商取引構造・エンジニアリング構造の先駆的プロジェクトとして、数多くのレッスンをわれわれに与えてくれている。

日本でも、電力CALSを皮切りに、船舶CALSやソフトウエアCALSなど、業種別に数多くのプロジェクトが進められていたのは、記憶に新しい。

このような言い方をすると、VEセンターの水田先生など、プロジェクト開始当初から、今日にいたるまで、継続的に真摯に取り組まれている方々には申し訳ない気もするが、最近CALS(またはCALS/EC)という言葉を再び耳にするようになった。特に話題になっているのは、国土交通省が進めている電子入札機構に関してだ。いわゆる建設CALS/ECプロジェクトの方々が主体となって推進されている様子である。横須賀市では、電子入札を実際に行ったとの報道がなされている。電子入札制度の評価は、今後の分析に委ねられることとなろうが、ネットワークが公共調達にまで利用されるに至ったことは感慨深い。

1985年という時代を考えていただければ、およそ察しがつくであろうが、この年以降、1993年のWEBの登場を筆頭に、ネットワーク環境は急速に変化し、今日のインターネットのように、管理者も特定されない、だれでも参加可能な自由な情報空間がグローバルに展開されるようになった。1985年当時のVANのネットワークを基礎においたCALSのそもそものコンセプトも、時代の急激な変化とともに、幾度となくコンセプト自体の改訂がなされ、CALSというアクロニム(頭文字語)の意味も、その都度変えられてきた。現在では、Commerce At Light Speed.の略としている模様である。口さがない英国人は、CALSのことを「Changing Acronyms, Loses Sence.の略である」などと揶揄するほどである。

その帰結に対する評価は、さまざまであろうが、私自身、CALSに関わってきた時代もあり、近頃のe××や、i○○、またドット・コムなどの新しいネットワークビジネスを代表する言葉よりも、CALSと言う言葉に、なんとなく落ち着いた響きを感じるところである。また、そのプロジェクト過程でのレッスンは、電子入札に限らず、今日のネットワークビジネスのいろいろなところで、役立てられていると確信している。

CALSのコンセプトの展開には、当時の時代背景が色濃く浮かび上がる。1985年当時の米国は、貿易収支、財政収支の双子の赤字に悩まされ、一方の日出る国はバブルの絶頂期にあったことはご理解いただけよう。CALSは、当時の勢いの良い日本の製造業の成長の秘訣を、何とか米国流にして取り込もうとした様子がうかがえる。そこには、大部屋に部長も平社員も一同に仕事をする日本型の職場環境や、下請け企業と元請け企業との間で、日常のように行われている綿密な情報交換の様子などが上げられている。どちらも、われわれ日本人は、当たり前として捉えている仕事の形態なのであるが、米国では、なじみのない就労構造のようである。

このように、ウエットな側面まで情報共有し、価値共有しながら仕事を進めていくやり方を、ネットワークの上で実現しようとしたのが、CALSのひとつの側面とも言える。すなわち、日々発生する情報を、ひとつの組織のなかに限定せず、ネットワークを利用して関係する複数組織で共有することにより、文字通り"光のスピードでのビジネス”を、米国流に実現しようとした取り組みとも考えられる。

CALSプロジェクトでは、今日でも引き続き重要な課題である「標準化」への取り組みが積極的になされ、XMLの母体でもあるSGMLや、設計図面としてのSTEP、また商流としてのEDIへの標準化の取り組みがなされてきたことは、今日のわれわれの課題から見ても、その先見性に敬意を表せざるを得ない。UN/EDIFACTの国際標準としての確立に関してもCALSプロジェクトの果たした役割は、極めて大きいし、現在のOASISを中心に展開しているebXMLへの取り組みに大きく影響を与えているのも事実である。

CALSの取り組みが、一時のブーム的な取り扱いから離れ、実際に地に足をついた取り組みとして再評価され、現実化していくことは好ましいところでもあり、一方、 CALSで培われた検討成果を踏まえ、日本人が不得意とする標準化活動へのオープンで、積極的な参画の重要性を再認識するところである。



執筆  菊田昌弘(前代表取締役)



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