第12回 − 文房具のネットワーク取引は最先端 −
繰り返し申し上げているように私自身のこだわりは「ドキュメント」の電子化にある。私の社の業務も、その殆どがこれらに関係するものとなっている。
ただし、先頃多少毛色の変わった業務を実施した。ある文具店のWEB取引である。最近新聞紙面でも、文房具をインターネットで注文することができるなどの広告をご覧になった方も多かろう。
ドキュメント屋が、なぜこのような電子商取引に取組んだのかは、私なりの言い訳がある。
以前にも、このコラムで記述させて戴いたが、電子化されたドキュメントを商取引上の会計証拠や監査証跡として扱い得るようにするには、法制面を含め、数多くの課題が残されている。すなわち、電子商取引を、一般的な商取引と同様に扱い得るためには、実はドキュメントの電子化に係る数多くの検討が必要となる。
今回取組んだのは、文房具の商取引の中で、「外商」と呼ばれるビジネスである。外商とは、一般の店舗販売と違って、主としてオフィスのお客様を対象に、文具の注文を受けてお届けする御用聞き型ビジネスである。いわば御用聞きの代りに、WEBがお客様のご注文を受取ることを意図した仕組みである。
通常の店舗での販売においては、書類のやり取りは殆どなされない。キャッシュレジスターからのレシート程度であろう。
ところが外商の場合、同じ鉛筆を買うのでも数多くの書類がやりとりされる。まずは、お客様から発行される注文書であり、品物とともに届けられる納品書がある。お客様が確かに納品を確認すると検収書が発行され、検収書に基づいて、月末にその月の注文をまとめた請求書が発行されることとなる。
また、お客様のオフィスでは各々の社員の注文を、上位職者が承認したり、ある部門の文房具費用についての予算実績管理がなされ、各期末には決算書に結び付けられなければならない。
このように、同じ鉛筆を買うのであっても、B to C(企業対一般消費者)コマースとB to B(企業対企業)コマースでは、行き交うドキュメントの数が大きく異なってくることとなる。また、店舗においては、値札によって(基本的に)だれもが同じ値段で御買い求め戴くが、外商の場合、取り扱う品目や取り扱い量に応じて、値段がお客様毎に変わることが多い。
今回開発したのは、明らかにB to Bを対象とするコマースである。開発を行ったのは銀座文具と言う、銀座に拠点を構える文房具小売業である。ご他聞にもれず、文房具業界も他の業界にもまして、今日の不況の嵐の中にある。そこで、上記のWEBを利用した外商の仕組みを私に相談されたのがきっかけである。そのサービスはIDeLNet(アイデルネット)と呼ばれ、9月より営業を開始した。
上記のように、多数のドキュメントが情報としてWEBの後ろにやり取りされている構造が実現されている。この構造のもとでは、
- 利用者は、オフィスでも、自宅からでも注文や承認を 行うことができる。
- 24時間いつでも注文・承認ができる。
- 社内での手続上の書類(購買申請など)がペーパレスとなる。
- 購入実績が、銀座文具側が提供する書面により管理可能となる。
などが可能となる。また、この構造の裏側には共配(共同配送)の機構が動いており、注文されたものは直接物流センターから注文されたお客様に、翌日には届けられる仕組みとなっている。
見方を換えれば、このネットワーク機構により、従来同一のオフィス内が原則とされた注文や承認、会計の流れが、全国どこでも可能となる。極論すれば、(こと文具の購入に限っては)お客様企業のワークフローを、働いている場所とは無関係に構成することも可能と言えよう。また、このような機構を利用し、文具以外にもさまざまなオフィスでの消耗品を流通させることも可能となる。
さらに、お客様は、決算に必要な文具に関する会計データをアウトソーシングし、仕訳された結果としての帳票(会計補助簿など)を文具店側に出力させたり、予算実績管理の一部を委託したりすることもできる。
ネットワークの上では、さまざまにこれまでの経済機構が大きく改革されつつある。文房具の小売り業も、文房具そのものを売るのではなく、文房具の注文という情報を売る商売に変革していくのではないかとひそかに考えるところである。
執筆 菊田昌弘(前代表取締役)