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第22回 − 新たな局面を迎えたXML −

先月、今月とさまざまな学会やらカンファレンスでお話させて戴く機会が続いている。

特にXMLに関する機会が多い。明日からも池袋サンシャインシティ・コンベンションセンターで「XMLフェスタ」を催すスケジュールとなっており、私もその企画・実行をお手伝いさせて戴いている。このところ相次いで開催されるXML関係のイベントはいずれも満員盛況の様子であり、300名程度と予定していたのが500名を超えたり、100名程度と考えていたのが200名近くの申し込みを得ている。昨今の不況のなか、企業のフォーラム参加費用が制限されているとの話を良く聞くところであるが、このように多くの参加申し込みを戴くことは催しをお手伝いさせて戴いている立場として大変好ましいし、古くからXML に注目してきた一人として今日の様子に、いささか驚いてもいるところである。

実際、このところ米国においてもXMLは新たな段階を迎えつつあるようにも感じる。来日して戴いたW3CのXMLコミッティのチェアマンであるJ.Bosak氏は、1966年より開始された規格検討段階を第1段階として、各領域への展開段階から、新たに第3段階に突入したとのことである。

その一つの例を先頃発表されたマイクロソフト社によるBizTalkに見ることができる。日本でも先月アナウンスがなされたので、ご承知の方も多いと思われる。

BizTalkとはBiz(Business)とTalkとを組み合わせた語であり、ビジネス同士が相互に会話することを意図して名付けられた言葉として理解できる。そのフレームワークの基礎にXMLが位置づけられている。すなわち各ビジネスのシステム同士がXMLを用いて会話し、それぞれ業務を協調的に実施していくための情報空間の形成を意図しているものとして受け止められる。

BizTalk以外にも、最近活発に展開されているEJBを使ったB2Bコマースのフレームワークなどにおいても、情報交換・情報共有のための枠組みとしてXMLが数多く採用されている。

おそらく米国におけるこのような展開が日本にも反映され、今日のフィーバとも言える状況に結びついているのであろう。

ただし、例によって斜めにものを考えるクセのある私には、今日のフィーバぶりにいささか危険も感じる。その多くは、これまでの日本における情報技術展開のプロセスにある。

昭和38年のMIS視察団をエポックとする日本のコンピュータ導入の流れは、当時から常に米国での最新技術の導入に焦点が当てられ、むしろ情報技術導入自体が目的とされ続けてきた。その結果、本来の目的としなければならない企業組織の合理化や効率化が、いつの間にかコンピュータ化(EDP化)にすり替えられていたように思えるところである。すなわちEDP化そのものが合理化・効率化と同義として扱われてきたものであり、この傾向は、その後のデータベースやネットワークについても同様に、データベースを導入すれば、組織の情報管理が合理化され、ネットワークを導入しれば、業務処理が飛躍的に向上するとの短絡的論理が支配してきたように思える。

今日のXMLのブームとも言える状況は、またぞろ「XMLを導入すればECができる」とか「ナレッジ・マネジメントが実現される」とか言った話になるのではないだろうか?

XMLの持つ可能性を決して矮小化するのではないが、極めて狭義に捉えればXMLは、システム同士が相互に会話するための文法と言える。簡単に言えばシステム(決して人間ではない)が会話するために「標準語」を定めようとするイニシアティブでもある。 これまで、各組織の事情や採用したプラットフォーム(ハードウエアやソフトウエア)によってばらばらであった"ことば”を、ネットワーク時代にふさわしく"標準語"としての文法を定めようとしている。いくら日本語を話していても、教養のある人同士の会話とそうでない人の会話は、目的も内容も異なってしまうのと同様に、システム同士の会話の文法が同じでボキャブラリが共通であったとしても、肝心の会話当事者(すなわちシステム)の知識レベルが低ければ、その知識レベル相当の会話しかできないこととなろう。

すなわち、XMLの導入に際しても、決してXMLが何かをもたらすと言った期待は無理と言うべきであり、それぞれのシステムがネットワーク上に何千万も接続した他のシステム群と「何のために会話したいのか?」「会話できることによって、何を実現したいのか?」と言った自らへの問いかけが必要とされる筈である。

一方、これまで標準化されたことばも持たなかったコンピュータシステムが、相互に会話できる空間を得たことによって生み出される便益は図り知れない。あたかも人間社会における「ことばの発明」や「文字の発明」に匹敵するものであるとも言える。

HTMLの出現によりインターネットは、それぞれのシステムに共通の表現手段であるWebをもたらした。今やそれぞれのWebサイトのプラットフォームを気にすることなく、一つのブラウザで全世界の情報を自由に閲覧することができる。いわば、HTMLはインターネットに「システム→人間」のインタフェースの共通化をもたらしてくれた。

XMLは、インターネットに接続されたそれぞれのシステムに対して「システム→システム」のインタフェースの共通化をもたらす。すなわち、インターネットが「プログラマブル」なネットワークに変貌する契機を与えている。XML活動の中で展開されているXMLスキーマや、メタ言語規約またレジストリ・サービスやリポジトリの形成に向けての努力は、あるシステムがそのシステムに必要な情報を全世界のサーバから発見し、自らのプロセスに自在に利用していく可能性を与えるものであるし、XSLに代表されるスタイルシートは、XML情報を利用者の希望するメディアや体裁で表示提供してくれるものとなる。

Bosak氏の言葉通り第3段階を迎えたXMLは、確実にインターネットを新たな局面に導き始めている。全世界に亘る情報空間を目前にしつつある我々は、それにふさわしい知性を磨く必要がありそうだ。決してXMLを情報技術屋の世界の問題として押しとどめることなく、行政は行政として、金融機関は金融機関として、広大な情報空間にどのように対処していくのかの問いかけに対する答えを求められている。



執筆  菊田昌弘(前代表取締役)



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