COLUMN

第34回 医療と情報

今、沖縄のホテルの一室でこの原稿を書いている。ご縁を戴いて年初以来沖縄の方々と離島僻地の医療について勉強している。ネットワークや情報技術の進展は、この分野にもさまざまに影響をもたらしているところであり、私のような立場の人間も、多少出番が生じている。

しかし、離島僻地の医療は、現地に赴任しているお医者さんの昼夜を問わない努力の上に成立しているのが現実のようであり、まだまだ解決しなければならない多くの課題がありそうである。そのなかで、目覚しい進展を遂げているネットワークを中心とした情報技術に期待される役割は大きい。

年初に沖縄の方々とご一緒に訪問したハワイ地域も、米国にあって沖縄と同様に、サモアやグアムなど米国本土から離れた諸島地域に対する医療体制への責任をおっており、ハワイ大学を中心に、陸軍病院まで含めて遠隔医療への研究に取り組んでおられた。

もちろん、ハワイにあっては、情報技術先進国として多くのコンピュータ・システムが医療現場を支援していることはよく理解できたが、個々のシステムに着目すれば、わが国でも目にすることができるものでもある。敢えて彼我の差をあげるならば、むしろ情報技術そのものよりも、その運用体制や検討体制にある。具体的には、産婦人科(周産期)医療と、新生児への医療とがそれぞれの病院の枠を超えて連携している事実であり、また医療現場への情報技術の導入と適用が、日本であればベンダー(医療機器メーカやコンピュータ会社)が中心になって進めるところを、ハワイにおいては、看護婦やドクターなど、医療の専門家が自らその研究や開発に主体的に取り組んでおられるところなどである。

実際、医療分野のネットワーク利用に関して日本では大きな課題として注目される情報セキュリティの問題に関しても、米国では、パスワードを中心とした認証機構がほとんどであり、いわゆるPKIなどの最新技術を導入している様子ではなかった。また私が取り組んでいるXMLなど電子文書の世界でも、HL7の規格が検討されてはいるが、ハワイで見た限りにおいては、実際の適用にまで及んでいない。

すなわち、米国での医療の情報化への取り組みは、医療現場からの直接のニーズにより、しかも現場に直接従事している方々の情熱によって進められている様子である。

一方、八重山などの日本の離島における医療現場にあたられているドクターの実態をみると、時間的にもとてもこの種の新しい取り組みについて考えていくゆとりはなく、また国民的課題ともされる医療費圧縮への動きは、離島僻地での医療現場にあっても、むしろ労働強化に結びついている様子でもある。

沖縄サミットの効果もあり離島振興が叫ばれ、財政面を含めた振興策が展開されており、また総合行政ネットワークの利用に際して、医療情報への適用が検討されている今日、多くの島々を抱える沖縄県は、この分野に先進的な役割を果たしていかれることを期待するところである。

実際、豊かな自然に恵まれ、温暖なこの地に滞在してみると、東京などの混雑した都会で老後を送るよりも、医療施設などの条件が整えられれば、むしろ離島でのんびりと余生を楽しむのも悪くないなと思う。

情報基盤の整備とともに、日常の健康維持と医療とが相互連携し、豊かな老後を送りたい方々を都会から招き入れることも、ひとつの離島僻地振興の策となるのではないかと考える。また、米国のサンディエゴにあるラフォーヤという風光明媚な地域では、次世代産業ともいわれるバイオ関係のベンチャーが数多く活動を進めている様子である。

あわせてバイオメトリクス産業の活動基盤を提供することにより、「健康」を主眼においた新しい地域振興の方策も考えられるのではないだろうか?多くの課題に直面している日本の医療体制にあって、僻地である特性を活かし、「医療自由地域(フリー・ゾーン)」として形成することはできないかなどと漠然と考えるところである。

執筆 菊田昌弘(前代表取締役)