COLUMN

第35回 ネットワークと出版業界の変化?

以前にも書かせていただいたが、ネットワークは出版や書籍流通の世界にも大きな影響を与えている。いや、むしろネットワークの本質から考えれば、これまでの情報や知識の主な流通基盤であった出版や書籍流通に対してこそ、直接的な変化がもたらされることを想定する必要がある。

ネットワークの進展に伴い、この分野にもさまざまな取り組みがなされている。たとえば、学術論文のオンライン投稿から、オンラインパブリッシュメントの一貫したプロセスの構築や、有価証券報告書の電子的届出と開示までのプロセスなどがあげられる。それ以前から、TeXの利用やワープロの利用、デスクトップ・パブリシング機構の運営などが行われてきている。もちろん、私がこだわっているXMLも、この種の取り組みに大きな影響を与えていくであろうことが容易に想像できる。

このような状況のもとに、出版業界・印刷業界においてもさまざまな取り組みが始まっている。ネットワーク上のコンテンツ流通に向けた著作権保護の枠組みについても、法的な側面から長い間、検討が続けられている。

しかし、これらの検討のいずれも、従来からの著作者を前提とし、印刷・出版業界、また書籍流通業界の枠組みそのものについての検討には及んでいないように感じている。

一方、音楽CDの業界では、ご存知のように大きな変化が発生しているようだ。たとえば、ナップスターという音楽配信の仕組みである。米国のレコード会社との間で著作権問題が発生したのは、よく知られている。その裁判ではナップスターが敗訴したようであるが、ナップスターに代わる利用者側の自発的な流通メカニズムとして新たにグヌーテルという機構も急速に展開しているようである。いずれも、従来のレコード会社、CD販売店での流通ルートに乗らない流通経路であり、これまでの関連産業全体に根本的な変革を迫るものである。

いずれも、従来からある音楽業界が、自発的にネットワーク流通への対応を考え出したのではなく、利用者(視聴者)の立場から、まったく新しい機構として出現したものである。同様のことが、出版業界に発生しても不思議はない。これまでの出版・印刷の流通構造が、ネットワーク時代を迎えて、これまでの著者・出版者が主導権をもった流通構造から、読者が主導権をもった流通構造へ転換する可能性を考えなければならないだろう。

ひとつには、読者が自由に選択できるグラニュラリティ(粒の大きさ、すなわち流通単位)の実現であり、従来からの流通単位である本一冊ではなく、ある章のみを特定して入手することが実現されていくであろうと考える。次には、読者側がそのプレゼンテーションを操作する可能性であり、ページレイアウト自体が、出版者ではなく、読者が自由にレイアウトし、閲覧するような機構が創造される。

前者は、ナップスターにおける音楽配信では、すでに実現されているし、後者は、XMLが理想として描く機能でもある。これらの変化は、音楽業界、出版業界に限定されないネットワーク時代における流通構造全体の潮流でもあろう。

執筆 菊田昌弘(前代表取締役)