第38回 コンソーシアムの光と影
再三申し上げているように、このところXMLに関係したコンソーシアムの組織化が盛んに行われている。電子購買であり、電子申請であり、電子調達であったり、おのおのの目的に沿って、さまざまな企業が参加されている。
これらコンソーシアムに共通する目的は、XML(その関連規格)を使って、ネットワーク上で情報交換、情報共有を行うための「標準」を共通に定めるところにあろう。いわば。ネットワーク上での会話を成立させる、「標準語」と「マナー(作法)」を共通にし、ネットワークの即時性、オープン性の特質を生かした、企業・組織連携の新しい枠組みを実現することに目的をおくものと捉えられる。
XMLは、各企業や組織が使用するシステム環境(ハードウエア、OSなど)に依存しない情報表記法であり、システムの相違を乗り越えて情報伝達を行うためには極めて好都合である。
ただし、XMLそのものは、情報を電子的に表現するための文法を定めた規格であり、システム対システムの会話を成立させるところに、その機能がある。文法だけを定めても、社会ルールは成立しないのは当然であり、ボキャブラリ(語彙)の共通化や、「はじめまして/こんにちは」といった類の、行儀作法が共通化されないと、ビジネスルールは構成されない。XMLを実際に、新しい組織間協業の枠組みのなかで適用する際には、これらの共通化が必須となる。各コンソーシアムは、おのおのの領域において、これらの共通化を組織横断的に定めるところに、活動の焦点が当てられることとなろう。
これらの標準は、コンソーシアム参加者に限らず、広く用いられることにより、デファクトスタンダード(事実上の標準)たり得る。またこのような標準が構成されることにより、直接の目的とする電子申請や、電子購買が効率的に実施できると同時に、行儀作法をサポートするためのソフトウエアが広まったり、ボキャブラリーを通訳したりするサービスが発生したりして、昨今課題として言われている「新しい雇用創出」にもつながってくるなど、相乗的な効果が期待される。
しかし、コンソーシアムの運営次第で、利用者が限定されたり、大きな企業の目的に限定した標準化にとどまったりした場合、本来の目的が損なわれることも懸念される。似て非なるデファクトスタンダード(?)が数多く構成されたり、デファクト同士のぶつかり合いなども考えられ、せっかく関係者の地道な努力の上に実現されたXMLそのものの意義まで疑われかねない危険性まではらむ。
特に、われわれ情報技術をなりわいとする企業は、コンソーシアムへの参加が、自分の提供するソフトウエアを販売するための利益行為として捉えられがちである。正直、われわれも企業を経営する以上、販路拡大の手段として、コンソーシアム活動に参加する意義を捉えてもいる。いくらソフトウエアを作ったところで、それをお使い戴くソサイエティが形成されなければ、商売にならないのも、ことXMLに関しては現実である。
一方、現実のコンソーシアムの大多数は、ご利用者と言うよりも、われわれのような情報技術企業(メーカ、ソフトウエアハウス、SIベンダー)が参加者の大半を占める。
このような場合、ご利用者が共通に自分たちが使う語彙を定めたり、作法を定めたりすることよりも、どのようなソフトやサービスを創りだすべきかを共通化することに、コンソーシアムの目的が置き換わってしまう。このため、抜け駆けを牽制したり、ひとつの企業の独走を阻むスタビライザー的な役割へと転じてしまう危険性もはらむ。
事実これらのコンソーシアムでの議論では、知的財産権の取り扱いをどうするか?の話題が多い。
コンソーシアム活動は、共通の課題認識を持ち寄り、一社の判断に委ねられることなく、関係者(ご利用者企業群)がフェアにルールを策定していくことに、最大の意義がある。またこのように民主的に、かつオープンに定められたルールがなければ、新たなソフトウエアやサービスを生み出すための基盤が成立しない。
コンソーシアム活動を通じてフェアにルールを定め、またコンソーシアム活動により、ルールを普及啓蒙していくことによって、コンソーシアム自体の本来の目的が実現されることとなる。われわれ情報技術サイドは、コンソーシアムへの参加企業を拡大し、情報技術サイドからの専門的アドバイスを提供し、コンソーシアムが所期の目的を実現していくため、あくまでご利用者の主体的な活動を補佐する役割に努力を傾注すべきと思われる。
一方、このようにご利用者主体型で定められたボキャブラリーやルールを前提にして、どのように新しいビジネスを展開していくかは、個々情報技術側企業の裁量とアイデアに依存するものであり、自由競争に委ねられるものでなければならないと考える。簡単にいえば、市場そのものを形成し、拡大するのがコンソーシアム活動であり、製品やサービスを考えるのは、個々の企業であるとの切り分けが重要と思うのだが・・・?
執筆 菊田昌弘(前代表取締役)