第41回 Tim Bray氏が示唆するXMLの展開
前回、情報知識学会での第6回SGML/XML研修フォーラムにおいて、Tim Bray氏を招聘したのであるが、急遽キャンセルとなり、代わりに氏が用意してくれたビデオとスライドショーを用いて、参加された方々に説明をさせていただくこととなったいきさつを記述させていただいた。
その折に触れたように、氏のビデオとスライドショーが、今後のXMLを考えるうえで多くのことを示唆するものであったため、前回お約束したように今回は氏の考えているXMLに関わる課題や展開を紹介させていただく。
言うまでもなく、かれはXMLの当初より深く関わっている。XML1.0を記述し、XML 名前空間のチェアマンでもある。また最初のXMLカンファレンスのチェアでもあった。
私と彼との出会いは、XMLが出現するはるか前に遡る。当時彼はOPENTEXT社の代表であり、SGML準拠の検索エンジンを提供していた。この検索エンジンが、後にYahoo!の検索エンジンとなったことは、あまり知られていない。
すなわち、彼の活動や考え方は、XMLと言う領域に限定したものではなく、広くネットワークの可能性を信じ、また可能性を広げるところにある。
今回、彼が準備してくれたスライドショーの基調は、「XMLを利用者に!(Getting XML in Front of People)」という点にある。1994年(すなわちWeb登場の年)以来、7年あまり経過し、インターネットの爆発的展開が実現されたにもかかわらず、利用者(端末)側の環境がまったく変化していないとの指摘である。一方、XMLがWEB機構に適用されるようになったが、サーバ間連携に適用、すなわち裏方としての利用であり利用者側のPCにXMLを扱う機能が普及しているわけではない。
実際に、利用者とサーバの間で、HTTP(WEBのプロトコル)の上に、URLとHTML、JPGなどが行き交うというWEB構造の基本的な仕組みは、1994年以来少しも変化していないのは、指摘通りである。氏は、(HTMLではなく)サーバ側からXMLインスタンスが利用者に向けて送信され、利用者端末(PC)において、XMLパーザ(XMLインスタンスの解析機能)と、XMLインスタンスを直接扱うアプリケーション・プログラムを備えることにより、利用者がサーバ側から受け取ったデータ(情報)を自在に加工編集可能とすべきであると主張している。
このような主張をすると、早とちりの癖がある向きは「やはりXMLブラウザだ!」と考え違いをしそうである。実際、現実にXMLインスタンスとCSS(カスケード・スタイル・シート)を組み合わせ、情報をブラウザ上に表示する機構はインターネット・エクスプローラ上でも利用可能であり、現実に用いられてもいる。
しかし彼の主張は、XMLインスタンスそのものをブラウザ表示することにとどめるものではない。多くのWEBサーバが(HTMLに加えて)XMLでの情報提供することにより、利用者側で、これらの複数の情報を組み合わせて、新たな情報として編集表示することを考えている。このような機構の応用例として、WEB情報のビジュアル・マッピングを紹介している。彼自身、このような機構のための新しい企業(antarcti.ca)を起こしている。
ビジュアル マッピングの例
- Financial information (canadavc.com)
- Web services discovery (uddi.antarcti.ca)
- Internet directories (map.net)
- Library catalogs (belmont.antarcti.ca)
以前に、このコラムで記述したが、XMLは「システム対システム」の情報連携構造であり、HTMLと異なり「システム対利用者(人間)」のインタフェースを意図するものではない。すなわち、XMLで記述された情報(データ)が、そのまま別なソフトウエアで利用可能とすることを目的におく。従って、利用者インタフェースは、上述のようにCSSやXSL/XSLTなどのスタイルシート機能を用いて別途提供する必要がある。一見、わずらわしいようにも受け止められようが、情報の内容と構造、表現を分離することにより、新しいメディアを実現するところに、XMLの本質があるといっても過言ではなかろう。すなわち、Bosak氏の指摘する「情報の表現体裁は、(提供者ではなく)利用者が決定すべき」との理想のもとにある。
しかし、Tim氏が指摘するように、未だ利用者側端末でXMLをそのまま利用し加工するとの考え方は一般的ではない。彼の活躍によって、これまでの常識を覆す、新しい WEB上の機構が出現する日もそう遠いことではないと確信する。
執筆 菊田昌弘(前代表取締役)